しかし、待てよ…

近所に咲いていた「オニアザミ」です。
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2007.7.19
花そのものは紫がかったピンクのかわいい花ですが、葉といい花といい鋭い棘に覆われていて、触れるどころか近寄るのも恐ろしいような花です。
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2007.7.19
アザミの花、というと思い出すのが、歌舞伎の名狂言「十六夜清心」こと「花街模様薊色縫(さともようあざみのいろぬい)」です。江戸末期の安政二年、江戸城の御金蔵が破られた事件をもとに、これも実在した盗賊鬼薊(鬼坊主とも)清吉に仮託して、親子兄弟の因縁を絡めた二世河竹新七(黙阿弥)作の世話狂言です。安政六年に初演され大当たりをとりましたが、ご多分にもれず上演禁止の憂き目に遭い、明治になって解禁。その後十五世市村羽左衛門の清心、六世尾上梅幸の十六夜で名狂言となりました。

遊女十六夜と馴染んだのがばれて女犯の罪で追放された鎌倉極楽寺の僧清心坊は、十六夜と稲瀬川(実は隅田川)に飛び込み心中を試みますが、十六夜は流されて俳諧師白蓮(実は盗賊大寺庄兵衛、実は清心の兄)に助けられ、泳ぎが得意な清心は自力で岸に這い上がります。十六夜が死んだと思い込んだ清心は再び死のうとしますが、通りかかった小姓恋塚求女(実は十六夜の弟)が癪を起こしたのを助けた時、懐の金に眼がくらんで奪おうとしたはずみに殺してしまいます。良心の呵責から求女の脇差で自害しようとしますが、切っ先が触れた痛みにふと我に帰り、こんな科白を独白します。

しかし、待てよ。今日十六夜が身を投げたのも、またこの若衆の金を取り、殺したことを知ったのは、お月さまとおればかり。
人間わずか五十年、首尾よくいって十年か、二十年が関の山、つづれをまとう身の上でも、金さえあればできる楽しみ、同じことならあのように、騒いで暮らすが人の徳。
ひとり殺すも千人殺すも、取られる首はたったひとつ。
とても悪事をし出したからは、これからは夜盗家尻切り、人の物はわが物と、栄耀栄華をするのが徳。
こいつぁめったに、死なれぬわぇ。

この瞬間、清心は盗賊「鬼薊清吉」に変身し、後に再会した十六夜と共に悪の道に突っ走ります。まさに和製「ボニー&クライド」ですが、オニアザミの恐ろしげな中に美しい花が咲いているのを見ると、まさにこれこそ「悪の華」だなぁと思うのです。
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2007.7.19
by borituba | 2007-07-19 22:29 | はな | Comments(0)