世界を掴んだ「曲」

トリノ冬季オリンピックが終わりました。
日本にとっては厳しい結果でしたが、練習場所などがままならない中、みんな良くがんばったと思います。
唯一、フィギュアスケート女子シングルで荒川静香選手が優勝。ヨーロッパとアメリカが独占してきたフィギュアの世界で、アジア人として初めて表彰台の頂点に立ちました。
荒川選手がフリーの演技で使用した曲は、地元イタリアが生んだ大作曲家ジャコモ・プッチーニのオペラ「トゥーランドット」。開会式でルチアーノ・パヴァロッティが歌った「誰も寝てはならぬ」を中心にしたアレンジでした。
今回の優勝で繰り返し流されて、「どんなオペラなの?」と思われた方も多いでしょう。あらすじをご紹介します。ちょっと長くなりますが、お付き合い下さい。

時は伝説の時代、中国の都北京。皇帝アルトゥムの娘、王女トゥーランドット姫は、遠い昔に滅びた王家の王女ロウ-リンが、滅亡の戦火の中、悲惨な最期を遂げたことへの憎悪から心を閉ざし、「王族の血を引く者で、自らの出す3つの問いに答えた者の妃となる。しかし、答えられない者はその首を刎ねる」というお触れを出し、何人もの首を王城の門前に晒しています。あたかも答えられなかったペルシャの王子が首を刎ねられようとしています。群衆たちが「砥石よ回れ!首切り役人出でよ!」と騒いでいるところへ、内乱によって国を追われたダッタンの王ティムールが召し使っていた奴隷の少女リューに手を引かれてやってきます。雑踏の中で転んだティムールを助け起こしたのは戦乱の中別れ別れになったティムールの息子カラフ王子でした。引き据えられたペルシャの王子に無慈悲に死罪を宣告するトゥーランドット姫。その姿を見たカラフは、その美しさに我を忘れて立ちつくします。自ら3つの問いに挑戦すると宣言するカラフ。3人の大臣や父、そして「お聞き下さい、王子様」と必死に訴えるリューが止めるのも聞かず、カラフは合図の銅鑼を鳴らし、王宮に引かれていきます(以上第1幕)。

今日は姫がカラフに問いを出す日。ピン・パン・ポンの3人の大臣は死罪ばかりのこの問いの日にすっかりうんざり。「故郷に帰りたい…」とぼやくことしきり(第2幕第1場)。
場面変わって王宮の御殿。引き据えられたカラフの前に皇帝アルトゥムが登場。「無益で残酷な挑戦をやめよ」と忠告しますが、カラフは3度拒絶して挑戦を宣言します。ついに姫が登場。「この御殿の中で絶望の叫びがこだました」と、ロウ-リンへの思いを語り、「謎は3つ、死が1つ!」と叫びます。カラフは「いや!謎は3つ、命が1つだ!」ときっぱり答えます。
第1の問い-答えは「希望」。
第2の問い-答えは「血潮」。
カラフは見事に答えますが、第3の問い-「お前に火を与える氷、それはお前の火から冷たいものを取り出す白く、また黒きもの。その火をつける氷とは何か?」には苦戦します。しかし、「私に炎を与える氷、その名はトゥーランドット!」ついに3つの問いを解き、姫を手に入れる者が現れたのです。
結果を受け入れ難く、いやがる姫に「夜明けまでに私の名前を当てれば、私は死罪になりましょう。」と逆に謎をかけます。皇帝をたたえる民の声につつまれ、姫は呆然とその場を去ります(第2幕第2場)。

その夜。王子の名前の詮議のために北京の都には「誰も眠ってはならない」というお触れがだされます。夜警の「眠ってはならぬ!」という声が響く中、カラフは独り「夜よ失せろ、星よ沈め。夜が明ければ私の勝利だ!(今回使われた「誰も寝てはならぬ」)」と歌います。そこへ3人の大臣が現れ、「名前を教えてくれ!さもないと我々は皆殺しにされる。」と言いつつ、金銀財宝や美女を連れてきて懐柔しようとします。警吏がティムールとリューを捕まえ、引き出してきます。いつしか姫も現れ、リューを問い詰めます。しかしリューは「誰にも言えない秘めた愛のため、私は名前を言うわけにはいきません。」と答え、「姫の氷の心はあの方の炎で溶けることでしょう。あの方が再び勝つために、私はあの方を見ぬまま目を閉じましょう」と警吏から奪った短剣で胸を突き、自害してしまいます。悲しみにくれるティムールは、リューを死に追いやった者への恨みの言葉を吐き、リューの亡骸を抱いて立ち去ります(第3幕)。

実はここまで書いたところでプッチーニは喉頭癌のために死去。結末は弟子のフランコ・アルファーノが補筆して完成しました。しかし、1926年4月25日にミラノ・スカラ座で初演された時、指揮者トスカニーニは、プッチーニが完成したここまでで演奏を止め、「ここまでで先生は生涯の仕事を終えられました。死は芸術より強かったのです。」といって終演してしまいました。翌26日には補筆部分まで全曲が上演されました。

人々が去り、呆然と立ち尽くす姫とカラフ。混乱した心に困惑する姫にカラフは接吻し、姫は正気を取り戻し、愛の喜びに涙を流します。カラフは自らの名を告げ、民衆が讃える中、ついに2人は結ばれます(第3幕第2場、演出によって第4幕とされる場合がある)。

このオペラはプッチーニの「わし、イタリアのワーグナーになっちゃうもんね」作戦の集大成として作られました。壮大でファンタジックな設定、「愛」を巡るサスペンス的な展開、そして清らかな女性の犠牲的な死。プッチーニが偉大な先達ヴェルディを超えるために苦心の末にたどり着いたのがそのヴェルディの最大のライヴァル「ワーグナー」であったのが面白いところ。

画像は私が常日頃愛聴するカラヤン指揮、ウィーン・フィルハーモニーが1980年に録音したCDです。これはカラヤンがこのオペラに対する独自の解釈のもと、子飼いの歌手陣をフル活用した豪華盤で、入門にぴったりであるだけでなく、いつまでも聴き飽きない素晴らしい内容で、是非おすすめするものです。
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Commented by wonderfulscarlet at 2006-03-02 02:09
こんばんは!今回の記事大変興味深く拝見させて頂きました。
私の亡くなった祖父はクラシックを好んで聴いていました。
私はさほど詳しくはないのですが、その祖父の影響で
祖父が一番聴いていたワーグナーの物を今でも良く聴いております。
トゥーランドットは、2004年に所ジョージ氏の「笑ってコラえて」で
地元千葉の習志野高校が吹奏楽コンクールでトゥーランドットを
演奏したのを見て、吹奏楽でこんなに素晴らしいので
フルオーケストラで聴いたら尚更素晴らしいだろうと思い
興味を持ったきっかけでして、CDを買いあさって聴いています。
まさか両方の作者間でそのようなエピソードがあったとは驚きです。
鉄道の記事がきっかけで、デハ712さんのブログを拝見させて
頂く様になりましたが、今回このような記事を拝見する事が出来
大変感激いたしました。感謝申し上げます。
Byレッドライン
by borituba | 2006-02-27 19:28 | おんがく | Comments(1)