人気ブログランキング | 話題のタグを見る

シリーズ-東京の地下鉄を診断する:番外編

本来ならば最後に残った都営大江戸線の診断をするところですが、東京の地下鉄に関する気になる記事を目にしましたので、「番外編」としてこれについての考察をしてみたいと思います。

それは「東京メトロと都営地下鉄の統合」
というものです。記事を転載します。

(これより引用)東京メトロと都営地下鉄、経営統合で協議(読売新聞)

「東京メトロ」の愛称で地下鉄9路線を運行する東京地下鉄の梅崎寿社長は11日、都営地下鉄との経営統合について「(都と)話はしている」と述べ、統合を視野に協議中だと明らかにした。

その上で「(都営地下鉄には)4000億円を超える累積欠損金がある」と、都営地下鉄の財務健全化が課題との認識を示した。

2009年9月中間連結決算を発表する記者会見で質問に答えた。

両社はともに都内を中心に地下鉄を運行しており、統合で経営効率の向上などが見込まれる。両地下鉄を乗り継いだ場合、それぞれで必要な初乗り料金が不要になる可能性があるなど、利便性の向上も期待される。

ただ、欠損金のほかにも、旧営団から株式会社化した東京地下鉄と、公営の都営地下鉄の組織形態の違いや、コスト構造の差など、解決すべき問題も多い。

東京地下鉄の株式は、国が約53%、東京都が約47%を保有しており、同社では上場に向けた準備を進めている。(ここまで引用)


東京メトロは、早川徳次が創立した東京地下鉄道と、五島慶太が創立した東京高速鉄道が合併し、戦時体制下で国策企業化した帝都高速度交通営団(営団地下鉄)が完全民営化(株式会社化)することで成立しました。戦後、都市計画の一環としての地下鉄網の整備のなかで、路面電車からの転換を図る東京都がいくつかの路線の建設・運営を主張、計画された13路線のうち9路線を営団、4路線が都に割り当てられました。しかし、営団が国策企業とはいえ民間系の組織であったことで、東京都は当時まだ未開発だった地域へのアクセス路線(早い話が不採算路線)を引き受ける結果となり、都心アクセスの主導権は営団が握っていました。そのせいで都営地下鉄は東京の地下鉄網のなかで常に「脇役」的な存在が長く続きました。
しかし、その後の都市開発の進行で、都営路線も乗客数が増え、東京メトロと都営の路線の格差はかなり縮まってきました。都営も新宿線の直線的な線形を生かした急行運転など近年は健闘してきました。
昨年の副都心線(13号線)が開通し、当初計画の13路線がすべて開通したのを機に、東京メトロと都営地下鉄の統合がにわかにクローズアップされてきました。

では、2つの地下鉄が統合されると、どのようなメリットや問題点があるのでしょうか?


1.運賃の統合
現在、東京メトロの初乗り運賃は160円、都営地下鉄は170円です。また、一番路線距離の長い都営三田線(26.5km)を全線(西高島平-目黒間)乗り通したときの運賃は360円、それより約2km長い東京メトロ有楽町線(28.3km:和光市-新木場間)だと300円で、最長運賃では60円の開きがあります。特定の駅で乗り換える場合の割引運賃はありますが、全体に「都営地下鉄は割高」というイメージが定着しています。
2つの地下鉄が統合された場合、全線の運賃体系が同じになり、都営路線に関して言えば「値下げ」となり、値下げ効果に伴う乗客増が期待できます。また、乗客側としても中間改札を通ったり、キップを買い直したりする手間も省けます。ただ、都が抱えている欠損金(民間企業でないので「負債」とは呼ばない)の処理方法によっては逆に全体が「値上げ」になる危険性もあります。
欠損金のほとんどは大江戸線の乗客数見込みがはずれたことによる減収によるものです。これをどう処理するかは非常に難しい問題ですが、京成千葉急行を引き受けて京成千原線としたときに、千葉急行の負債処理のため千葉中央から先の運賃体系を据え置いたように、減価償却が終わるまで大江戸線だけ運賃体系をそのままにするような移行措置が必要になると思われます。
シリーズ-東京の地下鉄を診断する:番外編_d0044222_2091393.jpg
2009.2.7 西武鉄道池袋線中村橋駅
2.列車運用の柔軟化
都営地下鉄はとかく「お役所仕事的」なイメージがあり、サービス面で東京メトロに水を開けられています。かつては大晦日の終夜運転を行なわず、沿線に泉岳寺・水天宮・浅草寺といった寺社があるにもかかわらず成田-川崎間で運転されていた京成・京急の初詣特急(京成初代3000形・京急1000形で運転)浅草線内は通過していました。今でこそそんなことはなくなっていて、各線とも終夜運転を行うようになりましたが、京急で初詣特急に使いたい2100形の入線は未だに実現していません。また、空港輸送の幹線の中心でありながらあまり協力的でないところもネックになっています。
統合で路線が民営化されれば、すでに千代田線箱根ゆきロマンスカーの入線を実現していることもあり、浅草線へのスカイライナーや2100形快特の入線も可能になり、空港輸送の強化に大きなメリットになります。
また、三田線と南北線車両運用が共通化されたり(6300形が南北線に入ったり、9000系が三田線を走ったりできます。路線を共用しているのですぐにでも共用可能です)、東京メトロが一歩リードしている車両スペックを生かして都営路線のスピードアップができるなど路線の強化が期待できます。
シリーズ-東京の地下鉄を診断する:番外編_d0044222_214479.jpg
2009.6.12 京浜急行電鉄本線品川駅
3.問題点
都営地下鉄公営交通であるので、運転士・車掌をはじめ現場の掛員はすべて公務員ということになります。東京メトロ民間企業である以上、統合した場合都営地下鉄の職員は公務員から民間企業の社員への身分の切り替えが必要になります。その場合給与などを含めた雇用条件が大きく違うため、組合との交渉が難航することが予想されます。また、東京の地下交通を一手に引き受ける巨大私鉄が誕生するため、都営から移って来た運転士をはじめとする車両運行要員の教習や、駅員のサービス教育などにかなり時間がかかる可能性もあります。
そして1でも触れましたが、都営と東京メトロの収支格差の是正が最大の課題になります。特に大江戸線の乗客数の改善喫緊の課題と言え、その他の路線も含め東京メトロのノウハウを生かした即効性の高い増収策が求められます。浅草線で言えば主要駅(浅草・浅草橋・東銀座・新橋など)航空会社のチェックインカウンターを置くとか、浅草・人形町・東銀座に観光案内所や店舗を置くなど、すぐにでもできそうなことはいっぱいあります。
シリーズ-東京の地下鉄を診断する:番外編_d0044222_22335467.jpg
2009.9.13 京成電鉄押上線八広駅
シリーズ-東京の地下鉄を診断する:番外編_d0044222_22375296.jpg
2009.10.10 小田急電鉄小田原線千歳船橋駅
全体的にみれば、内向きの問題点より外向きのメリットが目立ち、なぜもっと早く論議しなかったのか不思議な気もします。まだ協議は始まったばかりのようですが、早期の進展を期待したいと思います。
シリーズ-東京の地下鉄を診断する:番外編_d0044222_2248526.jpg
2009.2.28 東京急行電鉄東横線自由が丘駅
by borituba | 2009-11-12 22:49 | てつどう